住宅政策は、住宅を何戸建てるかという問題だけではありません。人々が安心して暮らし続けられる場所をどう守り、仕事と生活が両立する地域をどうつくるかという、まちづくりの根幹に関わる問題です。
住まいが高くなり、住み慣れた地域に住み続けられなくなれば、そこに暮らす人々が減っていきます。商店や学校、地域活動の担い手も失われ、やがて街そのものが変質してしまいます。建物が立派になり、企業やオフィスが集まっても、住民がいなくなれば、地域社会は活力を失う可能性があります。
この問題が特に深刻に表れたのが、1980年代後半以降の東京の都心部でした。地価の高騰によって住宅を確保することが難しくなり、自治体は国の住宅政策だけに頼るのではなく、地域の実情に応じた独自の施策を考える必要に迫られました。
そこで重要になるのが、住宅を単なる「建物」として扱う発想から、人々の暮らし、地域社会、都市の将来を支える基盤として捉える発想への転換です。港区や千代田区の取り組みを手がかりに、住宅政策の変化と、その可能性や限界を考えていきます。
1. 住宅政策の転換――「住宅を建てる」から「人が住み続けられる」へ
地価高騰が明らかにした住宅政策の限界
日本の住宅政策は、長い間、住宅という「ハコ」を供給することを中心に組み立てられてきました。持ち家を取得するための融資、公営住宅などの公的住宅の建設、住宅建設計画に基づく供給戸数の設定が、その代表的な仕組みです。住宅の数を増やし、国民の居住水準を引き上げることが大きな目標でした。
しかし、1980年代後半に東京の都心部を中心として地価が急騰すると、こうした政策の限界が表面化します。土地を取得する費用が高くなりすぎて、個人が住宅を購入することも、行政が公的住宅を建設することも、以前より難しくなりました。
住宅費の上昇は、低所得者だけの問題ではありません。一定の収入がある勤労者であっても、都心部に住み続けるために大きな負担を強いられ、住環境を改善する余裕を失っていきます。家賃や土地代を抑えようとすれば、狭い住宅を選ばざるを得ない場合もあります。
さらに深刻なのは、都心部で住宅よりもオフィスや商業施設が優先され、生活のための空間が圧迫されることです。職場は都心にあるのに、そこで働く人が都心に住めない。昼間は多くの人が集まるのに、夜になると地域の住民が少ない。こうした状態が進めば、商店街や地域活動、近隣住民のつながりが弱まり、地域社会そのものが空洞化するおそれがあります。
つまり、住宅不足は単純に住宅の戸数が足りないという問題ではありません。土地の使われ方、住宅費、働く場所と住む場所の関係、地域コミュニティの維持が結びついた都市問題なのです。
国の政策から自治体の政策へ
国が全国共通の基準で住宅建設計画をつくり、地方へと計画を配分する方式では、地域ごとの事情を十分に反映できない場合があります。人口が増え続ける地域と、人口減少に悩む地域では、必要な住宅政策が異なります。大都市の都心部と農山村でも、住宅問題の現れ方は大きく違います。
そこで自治体は、地域の実情に合わせて住宅政策を組み立てるようになりました。住宅を建設するだけでなく、家賃負担を軽減したり、民間の住宅供給を誘導したり、高齢者が住み続けられる住まいを確保したりするなど、政策の幅が広がっていきます。
この変化は、住宅政策の地方分権化と捉えられます。国が決めた枠組みを地方が実施するだけではなく、地域の問題を発見し、それに応じた政策を自治体自身が企画する方向への転換です。
「ハコ」から「ヒト」へ、そして地域社会へ
この転換を端的に表すのが、住宅という「ハコ」を中心とする政策から、住宅に住む「ヒト」を中心とする政策への移行です。
住宅の供給戸数を増やすだけでは、必要とする人が実際に住めるとは限りません。家賃が高すぎれば入居できず、住宅が供給されても、通勤や子育て、介護などの生活条件が整っていなければ、長く住み続けることは難しくなります。
そのため、家賃補助や民間賃貸住宅の活用、高齢者向け住宅の供給、既存住宅の活用、まちづくりと連携した住宅施策などが重要になります。住宅を新しく建てることだけでなく、すでにある住宅をどう使い、住民の生活をどう支えるかという視点が必要になるのです。
住宅政策の目的も、住宅の数を増やすことから、居住の継続を支え、地域コミュニティを維持・再生することへと広がっていきます。
2. 都心の人口減少――企業が集まる街から、人が暮らす街へ
都心の発展が住民を追い出すという矛盾
都心部は、企業や商業施設が集まり、経済活動が活発になる場所です。しかし、都市の経済的な発展が、必ずしも住民の暮らしやすさにつながるわけではありません。
地価や賃料が上昇すると、土地や建物をより高い収益を生む用途に転換する動きが強まります。住宅よりもオフィスの方が有利であれば、住宅が取り壊されて業務用の建物に変わることがあります。新たに住宅が建設されたとしても、家賃が高額であれば、そこで暮らせる人は限られます。
このような変化が続くと、都心部で働く人々が都心に住めなくなり、遠距離通勤を強いられるようになります。地域の商店や学校、住民同士の交流を支える人々も減少します。街の経済活動が活発であるにもかかわらず、生活の場としての街が弱体化するという矛盾が生まれるのです。
都市の魅力は、企業が集まることだけで決まるわけではありません。そこで働く人が暮らし、子どもを育て、高齢になっても生活を続けられることも、都市の持続的な発展には欠かせません。
人口定住とは、住民を地域につなぎとめること
人口定住とは、単に人口の減少を防いだり、転入者を増やしたりすることだけではありません。住み慣れた地域で生活を続けられる条件を整え、働く人や子育て世帯、高齢者など、多様な人々が地域社会の一員として暮らせるようにすることです。
例えば、都心で働く若い世帯が家賃の高さを理由に転出すれば、地域は若い世代を失います。高齢者が建物の建て替えや家賃負担の増加によって転居を余儀なくされれば、長年築かれてきた人間関係も失われかねません。人口の数字だけを追っていては、こうした生活の変化を捉えられません。
そこで自治体には、住宅の供給だけでなく、住民が転居せずに済む仕組みや、転居した場合でも地域とのつながりを保てる環境を整えることが求められます。住宅政策は、人口政策であると同時に、福祉政策であり、地域コミュニティを守る政策でもあるのです。
3. 港区の住宅付置制度――民間開発を住宅供給につなげる
オフィス開発に住宅を組み込む
都心部の住宅不足に対して、自治体が試みた代表的な施策の一つが「住宅付置制度」です。これは、一定規模以上の建築・開発に際して、事業者に住宅の併設などを求め、住宅供給を促す仕組みです。
東京都港区では、1980年代以降、業務用の建物が増える一方で人口減少が問題となり、住宅を確保するための独自施策が進められました。住宅付置制度は、民間事業者による開発を住宅供給にも結びつけようとする試みです。
この発想の特徴は、行政が自ら土地を取得して住宅を建設するだけでなく、民間の開発活動に働きかけることにあります。住宅の供給を市場任せにするのではなく、街の将来像に照らして、開発のあり方を調整しようとしたのです。
住宅付置制度の効果と課題
住宅付置制度には、一定の住宅供給を実現できるという利点があります。都心で開発が進むたびに住宅が供給されれば、住宅の確保に役立ち、人口減少を緩和する可能性があります。行政が直接住宅を建設する場合に比べ、民間の建設力や資金を活用できる点も重要です。
一方、住宅が供給されれば、それだけで定住が実現するわけではありません。家賃が高ければ、一般の勤労者や子育て世帯が入居することは難しくなります。住宅の広さや間取り、立地、入居条件によっても、誰が住めるかは大きく変わります。
当時の制度をめぐる議論でも、供給された住宅の家賃が高額になりやすく、入居者が単身者や子どものいない夫婦、高所得の外国人などに偏る可能性が指摘されていました。住宅の戸数を増やすという成果と、幅広い住民が実際に住めるようにするという課題は、分けて考えなければなりません。
ここから分かるのは、住宅政策では「供給された住宅の数」だけでなく、「誰が住める住宅なのか」を問う必要があるということです。住宅が存在しても、地域で暮らすことを望む人々にとって手の届かないものであれば、定住政策としての効果は限定的になります。
住宅政策は単独では機能しない
港区の取り組みでは、住宅付置制度だけでなく、高齢者向け住宅や民間住宅の借り上げなど、複数の施策を組み合わせることが重視されました。
これは、人口定住という課題が、一つの制度だけでは解決しにくいからです。若い勤労者に必要な住宅と、高齢者が安心して暮らすための住宅は、必ずしも同じではありません。所得や家族構成、生活上の支援の必要性に応じて、住宅の確保の方法も変わります。
また、住宅を供給するだけでは、地域の生活環境が整うとは限りません。交通、公共施設、買い物環境、地域のつながりなどが住宅政策と連動して初めて、住み続けやすい街に近づきます。
4. 千代田区の住宅政策――住み続ける権利と都市の公共性
住宅を個人の財産だけでなく、都市の基盤として捉える
千代田区では、都心部の人口減少や地域の空洞化に対応するため、1991年に住宅基本計画が策定されました。そこで重要な考え方として示されたのは、現在住んでいる区民が住み続けられるようにすること、そして区内で働く勤労者も区内に住めるようにすることです。
この考え方には、住宅を個人が購入・賃借する私的な財産としてだけでなく、都市を維持するための公共的な基盤として捉える視点があります。
都心に住宅があり、そこに住民が暮らしていることは、地域コミュニティの維持や防災上の観点からも意味があります。住民が日常的に生活する街では、近隣関係が育まれ、地域の変化にも気づきやすくなります。反対に、業務機能ばかりが集積して居住人口が減少すれば、街の機能が偏り、生活の場としての安定性が損なわれる可能性があります。
そのため、千代田区は住宅供給を市場の動きに全面的に委ねるのではなく、行政が積極的に関与する姿勢を打ち出しました。住宅を確保することは、個人の暮らしを守るだけでなく、都心を安全で快適な空間として維持することにもつながるという考え方です。
公共住宅だけに頼らず、民間住宅も活用する
千代田区の住宅基本計画では、住宅政策を複数の施策からなる体系として構成しています。公的住宅の供給に加え、良質な民間住宅の供給誘導、社宅などの活用、住宅を含む建て替えの促進、街づくりとの連携、高齢者向け住宅の供給などが盛り込まれました。
特に重要なのは、行政が住宅を直接建設するだけでなく、民間事業者が住宅を供給しやすい条件をつくろうとした点です。土地価格が高い都心部では、公共住宅を大量に建設するための土地を確保すること自体が難しいため、行政の直接供給だけでは限界があります。
そこで、民間が建設した住宅を自治体が借り上げて区民に提供する方法や、住宅供給を促す制度などを活用します。民間の資金や建設能力を生かしながら、住宅が市場の収益性だけに左右されないよう、行政が一定の役割を果たそうとしたのです。
このような仕組みは、公共部門と民間部門を単純に対立させるのではなく、それぞれの力を組み合わせる発想だといえます。ただし、民間住宅を活用する場合でも、家賃が入居者の負担能力に合っているか、必要な人に住宅が届いているかを確認することが欠かせません。
住宅供給を街づくりと一体化する
千代田区の計画で注目されるもう一つの点は、住宅政策を街づくりと結びつけたことです。住宅を単独で供給するだけでは、オフィス街の中に住居が点在するだけになりかねません。住宅、公共施設、道路などの整備を組み合わせ、地域全体で暮らしやすさを確保することが必要になります。
そのため、開発事業者との街づくり協議や、住宅を含む共同建て替え、街区単位での再整備などが政策の対象になりました。業務用の建物を建てる場合にも、住宅を併設することや、住宅供給に協力することを求める仕組みが検討されています。
こうした施策の背景には、土地の使い方を個々の事業者の判断だけに任せると、街全体として住宅が不足する可能性があるという問題意識があります。個々の開発が経済合理性にかなっていても、その積み重ねが地域の居住機能を損なうことがあるのです。
まちづくりとは、個々の建物を整えるだけでなく、建物と建物の関係、住宅と仕事の関係、住民と公共施設の関係を調整することでもあります。千代田区の住宅政策は、住宅供給を都市の将来像と結びつけようとする試みとして位置づけられます。
5. 住宅政策の新しい方向――七つの転換
都心部の自治体が進めた住宅政策には、それまでの住宅政策とは異なる方向性が見られます。重要なのは、単に新しい制度が増えたことではなく、住宅問題を捉える基本的な考え方そのものが変化したことです。
持ち家中心から賃貸住宅の重視へ
住宅を所有することだけを理想とするのではなく、賃貸住宅であっても安心して暮らし続けられる条件を整えることが重視されます。土地価格や住宅価格が高い都心部では、誰もが持ち家を取得できるわけではありません。賃貸住宅の質や家賃負担を改善することは、働く人々が地域に住み続けるための重要な手段になります。
公的住宅の直接供給から民間住宅の供給誘導へ
自治体が住宅を直接建設する方法に加えて、民間が供給する住宅を活用する方法が重視されます。民間住宅の借り上げや住宅付置制度などは、その例です。ただし、民間の力を活用することは、行政の責任をなくすことではありません。住宅を必要とする人に届くように、供給条件や入居者負担を調整する役割が行政に残ります。
新築住宅の供給から既存住宅を含む総合対策へ
新しい住宅を何戸建てるかだけでなく、すでに存在する住宅をどう活用するかが重要になります。建て替えに伴う住民の転居や、住宅が業務用の建物に転換されることなどにも目を向け、地域の住宅ストックを維持する必要があります。住宅政策は、供給の量だけでなく、既存の住宅がどのように使われているかを含めた総合的な政策へと広がります。
新しい住民の獲得から、現在の住民の居住継続へ
人口を増やすために転入者を呼び込むことだけでなく、すでに住んでいる人が転居を余儀なくされないようにすることが重視されます。住民が長く暮らすことで、近隣関係や地域活動が維持されます。人口定住は、新しい人を迎え入れることと、今いる人の暮らしを守ることの両方から考える必要があります。
低所得者への対応から、中間所得層も含む対策へ
住宅問題は、生活困窮者だけが直面するものではありません。住宅費が高騰すれば、一定の収入を得ている勤労者や子育て世帯でも、都心に住み続けることが難しくなります。そのため、住宅政策の対象を低所得者だけに限定せず、地域で働き暮らす中間所得層にも広げる視点が生まれました。
住宅政策と福祉政策の連携
高齢者など、住まいの確保に特別な配慮が必要な人々にとって、住宅は生活の安定を支える基盤です。高齢者向け住宅や住み替え支援などを住宅政策に組み込むことで、住まいの確保と福祉の充実を結びつけます。住宅は、建物を供給すれば役割を終えるものではなく、そこに暮らす人の生活を支えるものでなければなりません。
住宅政策とまちづくりの一体化
住宅を建てることだけでなく、公共施設や道路、地域の生活機能、周辺の開発との関係を考慮して住宅政策を進めます。住宅を街の一部として位置づけることで、住民が暮らし続けられる環境を地域全体で整えることが目指されます。
これらの転換に共通するのは、住宅政策を建設戸数の管理から、生活と地域社会を支える政策へと広げる姿勢です。
6. 法制度の壁――自治体が独自の政策を進める難しさ
地域の実情に合わせたい自治体と、全国共通の制度
自治体が独自の住宅政策を展開するようになっても、自由にあらゆる施策を実行できるわけではありません。住宅政策には、国の法律や既存の制度、民間事業者の権利、市場の仕組みなどが関係しています。
この問題を示す事例として、東京都が住宅基本条例の制定を進めた際の議論が挙げられます。東京都は、地価高騰を背景に独自の住宅政策を検討し、1990年には住宅政策に関する懇談会の最終報告をまとめました。その中では、住宅条例の制定や新しいタイプの公的住宅など、従来の政策を超える施策が提案されました。
しかし、条例の内容を検討する過程では、国の既存の法制度との関係が大きな制約となりました。自治体が地域の課題に対応しようとしても、既存の法制度の枠内では実行できることに限界があるのです。
ここには、地方自治の重要な課題があります。地域の住宅事情は自治体ごとに異なるのに、政策の手段が全国一律の制度に強く縛られていれば、地域の実情に合った対応を取りにくくなります。
行政が市場に関与することの難しさ
住宅付置制度や民間住宅の借り上げなどは、自治体が民間の住宅市場に働きかける方法です。しかし、住宅を供給するかどうか、どのような条件で貸し出すかには、民間事業者の判断も影響します。
例えば、住宅を建設するよう求めても、家賃が高ければ一般の勤労者が入居できない場合があります。住宅を供給する制度があっても、入居者の負担能力や住宅の利用実態まで十分に調整できなければ、定住の促進という目的を達成できない可能性があります。
また、住宅の供給を促す仕組みが、法律に基づく強い規制ではなく、要綱や協議などに依存している場合、自治体が事業者に求められることにも限界があります。政策の理念が正しくても、それを実現するための法的な権限や財源が不足していれば、成果には限りが生じます。
地方分権には権限と財源が必要
住宅政策を自治体が主体的に進めるためには、地域の事情に合わせて政策を企画できるだけでは不十分です。必要な権限、財源、制度的な裏付けが伴わなければなりません。
土地価格が高い地域では、住宅を確保するために多額の費用が必要になります。住宅の供給や家賃負担の軽減には継続的な財源が求められます。さらに、民間の開発を地域全体の利益につなげるためには、開発計画と住宅政策を調整できる仕組みも重要です。
自治体の創意工夫は大切ですが、それだけですべてを解決できるわけではありません。地方分権を実質的なものにするには、地域の課題に対応できる制度と、それを支える国の役割についても考える必要があります。
7. 人口定住を実現するために必要な視点
住宅の戸数ではなく、暮らしの条件を評価する
住宅政策の成果を評価する際には、供給戸数や建設件数だけを見ていては不十分です。家賃が所得に見合っているか、必要な人が入居できているか、住民が長く暮らせているかという観点が必要になります。
例えば、都心に新しい住宅が多数供給されたとしても、家賃が高く、地域で働く人々が入居できなければ、住宅供給が人口定住につながるとは限りません。反対に、既存住宅を活用して住み替えを支援したり、家賃負担を軽減したりすることが、住民の居住継続に大きく役立つ場合もあります。
政策の成果を、建物の数だけでなく、そこに暮らす人の生活の安定から評価することが大切です。
住民の多様な生活段階を考える
人々が必要とする住まいは、年齢や家族構成、所得、健康状態によって異なります。単身者向けの住宅、子育て世帯が暮らせる広さの住宅、高齢者が安全に生活できる住宅では、求められる条件が違います。
したがって、特定の種類の住宅だけを増やしても、地域全体の居住ニーズを満たせるとは限りません。多様な住民がそれぞれの事情に応じて暮らせるよう、住宅の種類と支援策を組み合わせる必要があります。
さらに、住まいの確保と、買い物、通院、子育て、通勤などの日常生活の条件は切り離せません。住宅だけがあっても、必要なサービスにアクセスできなければ、安心して暮らし続けることは難しくなります。
定住を「地域の維持」という観点から捉える
住民が地域に暮らし続けることは、個人の生活を安定させるだけでなく、地域社会を維持することにもつながります。日常的な交流が続けば、住民同士が助け合う関係が生まれ、地域の課題に気づきやすくなります。商店や公共施設など、生活を支える機能も、一定の居住人口があってこそ維持しやすくなります。
住宅政策は、建物の供給と管理にとどまらず、地域の人間関係や生活機能を支える政策として考える必要があります。住宅、福祉、都市計画、地域経済を別々に扱うのではなく、相互に結びつけていくことが、持続可能なまちづくりにつながります。
8. 住宅政策から考える、これからのまちづくり
住宅は、個人が生活するための空間であると同時に、地域社会を支える基盤でもあります。住民が安心して暮らし続けられることは、地域の商業や文化、福祉、防災、コミュニティの維持にも関わっています。
都心部の人口減少をめぐる問題は、経済活動が活発であっても、住宅費の高騰や生活空間の縮小によって、住民が地域から押し出されることがあると示しました。街の発展を企業やオフィスの集積だけで測れば、そこで暮らす人々の生活が後回しになる危険があります。
港区の住宅付置制度や千代田区の住宅基本計画は、こうした問題に対して、民間の住宅供給を誘導し、住宅と街づくりを結びつけ、住民の居住継続を支えようとした取り組みです。その一方で、家賃の高さ、入居者の偏り、法制度上の制約など、行政の工夫だけでは解決しきれない課題も明らかになりました。
ここから得られる教訓は、住宅政策を「住宅を何戸つくるか」という問題に限定しないことです。どのような人が住めるのか、住民が安心して暮らし続けられるのか、地域の生活機能やコミュニティを維持できるのかを考えなければなりません。
まちづくりの成否は、建物の高さや街の経済規模だけで決まるものではありません。そこに暮らす人々が住み続けられ、生活を営み、地域の一員として関わり続けられるかどうかも、重要な基準です。
住まいを守ることは、人々の暮らしを守ることであり、地域社会の未来を守ることでもあります。 住宅政策を生活者の視点から捉え直すことが、人口定住を実現し、長く住み続けたいと思える街をつくるための出発点となるのです。
