2019(令和元、平成31)年の主な出来事は以下の通りです。

2019年は、日本にとって非常に象徴的な一年でした。4月30日に平成の天皇陛下が退位され、5月1日に皇太子徳仁親王が即位して令和が始まりました。10月には消費税率が8%から10%へ引き上げられ、9月からは日本で初めてラグビーワールドカップが開催されました。一方、台風による大規模災害、京都アニメーション放火殺人事件、あおり運転問題など、社会の安全を考えさせられる出来事も相次ぎました。

世界に目を向けると、米中貿易摩擦、英国のEU離脱問題、香港の大規模抗議運動、気候変動をめぐる若者の運動、ノートルダム大聖堂火災、ブレグジット、米国大統領トランプ氏の弾劾、そして年末には中国・武漢で原因不明の肺炎が報告されるなど、翌2020年以降の世界を予告するような出来事が並びました。CFRは2019年を「抗議運動の年」と表現し、香港をはじめ各地で大規模な社会運動が起きたことを指摘しています。

科学技術の面でも、ブラックホールの史上初の画像撮影、Googleによる量子超越性の主張、AIの発展、宇宙探査、小惑星探査など、後の2020年代につながる技術的転換が相次ぎました。

この意味で2019年は、「平成から令和へ」という日本社会の時代転換と、「グローバル化から分断・デジタル化・脱炭素化へ」という世界の転換が重なった年だったと見ることができます。


1.社会――平成から令和へ

新元号「令和」の発表

2019年4月1日、政府は新元号「令和」を発表しました。

「令和」は『万葉集』の梅花の歌の序文を典拠とする元号で、1989年から続いた「平成」に代わる時代名称となりました。

4月30日には明仁天皇が退位され、5月1日に徳仁天皇が即位。2019年は、社会全体が「平成の終わり」と「令和の始まり」を経験した歴史的な年となりました。


高齢化がさらに進む

2019年には65歳以上人口が約3,590万人となり、総人口に占める割合は28.4%に達しました。

日本社会では、高齢者の増加だけでなく、介護人材不足、社会保障費、認知症、看取り、独居高齢者などが複合的な社会課題になっていました。

つまり2019年は、令和という新しい時代が始まる一方で、少子高齢化という平成から引き継いだ課題がさらに深刻化した年でもありました。


2.政治――安倍政権が長期政権へ

安倍晋三首相の在職期間が歴代最長に

2019年11月、安倍晋三首相の通算在職日数が2,887日となり、桂太郎を抜いて歴代最長となりました。

2012年12月に発足した第2次安倍政権は、2019年も日本政治の中心にありました。

アベノミクス、外交・安全保障政策、働き方改革、社会保障改革、憲法改正論議など、多くの政策課題が安倍政権の下で進められました。


参議院選挙

2019年7月には参議院議員通常選挙が行われました。

自民・公明両党は改選議席の過半数を確保し、安倍政権は引き続き国会で大きな政治基盤を維持しました。

一方、消費税増税、年金、社会保障、憲法改正などをめぐって政治的な議論が続きました。


3.政治――「れいわ新選組」の登場

山本太郎氏による新しい政治運動

2019年4月、山本太郎氏が「れいわ新選組」を立ち上げました。

同年7月の参議院選挙では、消費税廃止などを掲げ、重度障害者を含む候補者を擁立したことで大きな注目を集めました。

2019年は既存政党だけでなく、SNSなどを利用した新しい政治コミュニケーションが目立つようになった年でもあります。


4.政治・外交――辺野古移設をめぐる沖縄県民投票

普天間飛行場移設問題

2019年2月、沖縄県で米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について県民投票が行われました。

投票では埋め立て反対が多数となりましたが、政府は辺野古での工事を継続しました。

沖縄の基地負担と日米安全保障体制との関係は、2019年にも日本政治・外交の重要な問題でした。


5.スポーツ――ラグビーワールドカップ日本大会

日本代表が史上初のベスト8

2019年9月20日、日本でラグビーワールドカップが開幕しました。

日本代表はアイルランド、サモア、スコットランドを破り、初めて決勝トーナメントに進出しました。

日本代表の快進撃によってラグビーが全国的な社会現象となり、開催地となった各地域にも大きな経済効果・交流効果が生まれました。

2019年大会は、日本が国際スポーツイベントを開催することの意味を改めて示した大会でもあります。


女子サッカーワールドカップ

フランスで開催されたFIFA女子ワールドカップでは、米国代表が優勝しました。

女子スポーツの地位や選手の男女間賃金格差が世界的に議論される契機となり、スポーツが社会制度やジェンダー問題と結びつく時代を象徴しました。


6.経済――消費税が10%へ

消費税率8%から10%へ

2019年10月1日、消費税率が8%から10%へ引き上げられました。

同時に、飲食料品などを8%に据え置く軽減税率制度が導入され、キャッシュレス決済へのポイント還元策も実施されました。

これは財政再建と社会保障財源の確保を目的とする政策でしたが、家計や小売業、飲食業などへの影響も大きいものでした。


7.経済――日EU経済連携協定の発効

日本とEUの巨大経済圏が誕生

2019年2月、日EU経済連携協定(EPA)が発効しました。

世界でも最大級の経済圏を形成する協定であり、日本企業にとってEU市場へのアクセス改善が期待されました。

同時期にはTPP11も発効しており、日本は米国が離脱した後の自由貿易体制を積極的に構築していました。


8.ビジネス――「働き方改革」が始まる

時間外労働の上限規制

2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されました。

長時間労働の是正、年次有給休暇の取得、同一労働同一賃金など、従来の日本型雇用システムを見直す動きが本格化しました。

2019年は、「会社のために長時間働く」という価値観から、労働時間と生活のバランスを重視する働き方への転換が制度面から進み始めた年でした。


9.ビジネス――コンビニ・小売業の転換点

人手不足が経営問題になる

2019年には、コンビニエンスストアなどで人手不足や24時間営業の是非が大きな問題になりました。

少子高齢化によって労働力人口が減少する中、「店舗を24時間開け続けること」が本当に合理的なのかという問題が浮上しました。

これはその後の、

省人化 → キャッシュレス → 無人店舗 → AI・ロボット

という小売業の技術革新につながる重要な問題提起でした。


10.文化――令和時代の文化が始まる

「令和」という文化現象

2019年には「令和」という言葉そのものが社会現象となりました。

新元号の発表、改元、10連休、即位関連行事などを通じて、元号が日本社会の文化的・歴史的な時間感覚を形成していることが改めて意識されました。


11.文化――映画『天気の子』

新海誠監督作品が大ヒット

2019年には新海誠監督の『天気の子』が公開されました。

『君の名は。』に続く大ヒットとなり、日本アニメーションの国際的な存在感を示しました。

同作品は単なる恋愛物語ではなく、異常気象、都市、若者、災害などをテーマに含んでおり、2010年代後半の日本社会の空気を映した作品でもありました。


12.芸能――「嵐」の活動休止発表

嵐が2020年末で活動休止へ

2019年1月、人気グループ「嵐」は2020年12月31日をもって活動を休止すると発表しました。

長年にわたって日本の芸能界を代表してきたグループの活動休止は、大きな社会的ニュースとなりました。

同時に、テレビ中心だった芸能産業が、SNS、YouTube、動画配信、ファンクラブなどを組み合わせる時代へ移行する過程も進んでいました。


13.社会――京都アニメーション放火殺人事件

36人が死亡した大事件

2019年7月18日、京都アニメーション第1スタジオで放火事件が発生し、36人が死亡しました。

日本のアニメーション産業を支えるクリエイターが多数犠牲になった事件として、日本社会に大きな衝撃を与えました。

アニメ産業の創作現場、安全管理、犯罪被害者支援などについて考える契機ともなりました。


14.社会――あおり運転問題

自動車社会の新しいリスク

2019年には高速道路などでの「あおり運転」が大きな社会問題になりました。

危険な車間距離、進路妨害、急停止などの危険運転が映像によって記録され、SNSなどを通じて拡散されるケースも増えました。

ドライブレコーダーの普及も進み、「事故を記録する技術」から「社会の安全を監視する技術」へと車載カメラの役割が変わり始めました。


15.災害――令和元年東日本台風

台風19号による大規模水害

2019年10月、台風19号が日本列島を襲い、広い範囲で河川の氾濫や土砂災害が発生しました。

東日本を中心に甚大な被害が発生し、都市部の水害リスクも改めて明らかになりました。

これは単なる自然災害ではなく、

気候変動+都市化+高齢化+インフラ老朽化

という複数の社会問題が重なった災害として考える必要があります。


16.福祉――介護人材不足が社会問題に

高齢化と介護労働力

2019年には高齢者人口が3,500万人を超え、介護サービスへの需要が拡大していました。

一方、介護現場では慢性的な人材不足が続いていました。

政府は外国人材を受け入れるため、改正出入国管理法に基づく新しい在留資格「特定技能」を2019年4月から開始しました。

介護分野も特定技能の対象となり、日本の介護人材政策は新しい段階に入りました。


17.福祉――幼児教育・保育の無償化

子育て支援政策の転換

2019年10月、幼児教育・保育の無償化が始まりました。

少子化対策として、子育て世帯の経済的負担を軽減することが政策上の重要課題となっていました。

これは「高齢者福祉中心」と見られがちだった社会保障政策に、子育て・現役世代支援を組み込む動きが強まったことを意味します。


18.教育――教育格差とICT化

ICT教育への転換

2019年は、学校教育におけるICT活用が大きな政策課題になりました。

1人1台端末や高速通信環境を整備する「GIGAスクール構想」が本格化するのは2020年ですが、その前提となる教育ICT化の政策が進められていました。

そして翌2020年のコロナ禍による学校休校が、教育のデジタル化を一気に加速させることになります。


19.サービス――キャッシュレス化

消費増税とキャッシュレス還元

2019年10月の消費税増税と同時に、キャッシュレス・消費者還元事業が始まりました。

これにより、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済などの利用が広がりました。

重要なのは、消費税増税が単なる税制変更ではなく、日本の決済産業を現金中心からキャッシュレス中心へ移行させる政策と組み合わされたことです。


20.サービス――訪日外国人観光客

インバウンド観光が拡大

2019年には訪日外国人観光客が3,000万人を超える規模となり、観光は日本の重要産業へと成長していました。

ホテル、飲食店、交通、小売、文化施設など、さまざまなサービス産業が外国人観光客を意識するようになりました。

一方、オーバーツーリズム、観光地の混雑、地域住民との摩擦など、新しい課題も現れました。


21.医薬品――遺伝子治療が現実の医療へ

遺伝子を治療する時代

2019年には、遺伝子治療や細胞治療が現実の医療として注目を集めました。

特に、遺伝子を利用して難病を治療する技術が進歩し、「病気になってから薬を飲む」という従来型医薬品だけでなく、

細胞そのものを治療する

遺伝子そのものを操作する

という医療への移行が始まっていました。

これは後のmRNA医薬品や遺伝子治療産業につながる重要な流れです。


22.科学技術――ブラックホールを初めて撮影

世界初のブラックホール画像

2019年4月、Event Horizon Telescope(EHT)によって、ブラックホールの「影」の画像が初めて公開されました。

対象となったのは、巨大楕円銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールです。

これは単なる天文学上の成果ではありません。

世界各地の電波望遠鏡をネットワーク化し、巨大な仮想望遠鏡として利用するという、国際共同研究+高度な計算技術+ビッグデータの成果でした。Natureも2019年を代表する科学成果の一つとしてブラックホール画像を挙げています。


23.科学技術――量子コンピューター

Googleが「量子超越性」を主張

2019年、Googleは量子コンピューターが特定の計算課題で従来型スーパーコンピューターを上回ったと発表しました。

いわゆる「量子超越性」をめぐる議論です。

量子コンピューターは、現在のコンピューターを単純に高速化するものではありません。

量子力学の原理を利用することで、暗号、材料科学、創薬、最適化などに新しい計算能力を提供する可能性があります。

Natureは2019年の科学技術の重要事項として、この量子計算の進展を挙げています。(nature.com)


24.科学技術――はやぶさ2がリュウグウに着陸

小惑星から物質を採取

2019年2月、日本の探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功しました。

さらに7月には地下物質を採取するための2回目のタッチダウンも成功しました。

2020年の地球帰還につながる重要な成果であり、太陽系や生命の起源を研究するうえで貴重な試料を地球に持ち帰るミッションでした。


25.産業技術――AIが実用段階へ

AIが「研究」から「産業」へ

2019年にはAIが研究テーマから実用技術へと移行していました。

画像認識、音声認識、翻訳、推薦システム、自動運転、金融、製造業など、さまざまな分野にAIが組み込まれ始めました。

特にディープラーニングによって、画像や音声などの非構造化データを処理する能力が大きく向上しました。

この流れは2020年代の生成AI革命につながります。


26.産業技術――5G時代の到来

第5世代移動通信システム

2019年には5Gの商用化が始まりました。

5Gは高速通信だけではなく、

多数同時接続

低遅延

という特徴を持ちます。

そのためスマートフォンだけでなく、自動運転、工場、遠隔医療、IoT、ロボットなどへの応用が期待されました。

2020年代の「デジタル社会」の基盤となる技術が、この時期に整い始めたわけです。


27.国際社会――香港で大規模抗議運動

香港民主化運動

2019年6月、香港で逃亡犯条例改正案をめぐる大規模抗議運動が始まりました。

当初の法案反対運動は、次第に香港政府への抗議や民主化要求へと広がりました。

9月には政府が条例改正案を正式に撤回しましたが、抗議活動はその後も続きました。(cfr.org)

2019年の香港情勢は、中国と西側諸国との関係を悪化させ、翌2020年の香港国家安全維持法につながる重要な背景となりました。


28.国際社会――米中貿易戦争

貿易から技術戦争へ

2019年には米国と中国の貿易摩擦が激化しました。

米国は中国製品への追加関税を拡大し、中国も報復関税を実施しました。

問題は貿易赤字だけではありません。

5G、Huawei、半導体、AI、知的財産など、先端技術の主導権をめぐる競争へと対立が拡大しました。

現在の「経済安全保障」という考え方を理解するうえで、2019年は非常に重要です。


29.外交――G20大阪サミット

日本外交の大きな舞台

2019年6月、大阪でG20首脳会議が開催されました。

米国、中国、EU、日本など主要国・地域の首脳が集まり、貿易、デジタル経済、気候変動、世界経済などについて議論しました。

特にデジタル経済では、国境を越えて流通するデータをどのように扱うかという問題が重要になりました。


30.外交――日韓関係の悪化

輸出管理をめぐる対立

2019年、日本政府は韓国向けの一部半導体材料などについて輸出管理を厳格化しました。

これをめぐって日韓関係が悪化し、韓国では日本製品の不買運動なども起こりました。

戦時期の徴用工問題、輸出管理、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)などが絡み、両国関係は大きく揺れました。

この問題は、日本のサプライチェーンと経済安全保障を考えるうえでも重要でした。


31.外交――英国のEU離脱問題

Brexitの迷走

2019年の英国政治ではBrexitが最大の問題でした。

テリーザ・メイ首相がEUとの離脱協定をまとめたものの、英国議会で承認を得られず、メイ首相は辞任。

7月にはボリス・ジョンソン氏が首相となりました。

その後、12月の総選挙で保守党が大勝し、英国は2020年1月のEU離脱へ進むことになりました。


32.軍事――INF全廃条約の終焉

米ロ核軍縮体制が揺らぐ

2019年8月、米国とロシアの間の中距離核戦力(INF)全廃条約が失効しました。

冷戦期に構築された核軍縮・軍備管理体制が弱体化し、新たなミサイル開発競争への懸念が高まりました。

軍事技術が、核兵器だけでなくサイバー、宇宙、AI、無人兵器などへ拡大する中で、従来型の軍備管理制度が追いつかないという問題も浮上しました。


33.軍事・安全保障――北朝鮮のミサイル発射

北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射

2019年には北朝鮮によるミサイル発射が相次ぎました。

米朝首脳会談は2019年6月に板門店付近で行われましたが、非核化交渉は大きな進展を見せないまま推移しました。

北朝鮮問題は、日本にとって核・ミサイル問題であると同時に、拉致問題を含む外交・安全保障問題でした。


34.環境――気候変動が世界政治の中心へ

グレタ・トゥーンベリ氏と気候ストライキ

2019年には、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏が世界的に注目されました。

若者による気候ストライキが各国へ広がり、気候変動は環境問題だけではなく、教育、雇用、産業政策、エネルギー政策、金融政策の問題へと拡大しました。

Natureも2019年を特徴づけた科学・社会の出来事として、気候変動をめぐる抗議運動を挙げています。


35.環境――アマゾン森林火災

森林破壊と地球環境

2019年にはブラジル・アマゾン地域で森林火災が大きな問題となりました。

アマゾンの森林は生物多様性だけでなく、炭素循環や地球環境にも大きな役割を果たしています。

森林火災をめぐっては、農業開発、経済成長、先住民の権利、地球温暖化などが複雑に絡み合いました。


36.文化・社会――ノートルダム大聖堂火災

パリの歴史的建築物が炎上

2019年4月、フランス・パリのノートルダム大聖堂で大規模な火災が発生しました。

12世紀から続く歴史的建築物の焼失は、フランスだけでなく世界中に衝撃を与えました。

文化財が単なる建物ではなく、社会の記憶や文化的アイデンティティを保存する装置であることを改めて認識させる出来事でした。


37.皇室――明仁天皇の退位

約200年ぶりの生前退位

2019年4月30日、明仁天皇が退位されました。

日本の天皇が生前に退位するのは、近代以降では極めて異例であり、約200年ぶりの出来事となりました。

退位によって平成の時代が終わり、翌5月1日に徳仁天皇が即位されました。


38.皇室――徳仁天皇の即位と「令和」

新しい時代の始まり

2019年5月1日、徳仁天皇が即位され、令和が始まりました。

10月22日には即位礼正殿の儀が行われ、国内外から多くの要人が参列しました。

11月には大嘗祭が行われました。

2019年は、日本の皇室制度と元号という日本独自の政治・文化制度を世界に示した一年でもあります。


39.教育・子育て――幼児教育・保育無償化

子育て支援を社会保障の中心へ

2019年10月、幼児教育・保育の無償化が始まりました。

少子化が進む日本では、高齢者向け社会保障だけでなく、子ども・子育て世代への支援を拡充する必要性が高まっていました。

これは日本の社会保障政策が、

高齢者中心 → 全世代型社会保障

へ移行する過程の一つと見ることができます。


40.医療・科学――ゲノム編集をめぐる倫理問題

「遺伝子を変える」ことの倫理

2018年に中国の研究者がゲノム編集によって遺伝子を改変した双子の誕生を発表した問題が、2019年も世界的な議論を呼びました。

ゲノム編集技術は、遺伝病治療などに大きな可能性を持つ一方、ヒトの生殖細胞を改変することには重大な倫理的問題があります。

2019年は、生命科学の技術が「できるかどうか」だけではなく、「してよいのか」を問われる時代に入ったことを示した年でした。


41.医薬品・医療――電子たばこ関連肺障害

新しい健康リスク

2019年には米国を中心に電子たばこ・ベイピング関連の肺障害が問題となりました。

新しい製品が普及する一方、その長期的な健康影響について十分な知見が蓄積されていないことが明らかになりました。

これは、

新技術の普及 → 市場拡大 → 健康影響の発見 → 規制

という現代的な公衆衛生問題の典型例となりました。


42.年末――新型コロナウイルスの出現

2019年12月、武漢で原因不明の肺炎

そして2019年の最後に、翌2020年の世界を根本から変える出来事が始まります。

2019年12月、中国・湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者が報告されました。

この時点では、世界の大部分の人々にとって、これがわずか数カ月後に世界的なパンデミックを引き起こすとは予想されていませんでした。

しかし歴史を振り返ると、2019年12月は2010年代と2020年代の境界線ともいえる瞬間でした。


2019年を象徴する出来事

分野2019年を象徴する出来事
社会平成から令和へ、高齢化、災害
政治安倍政権、参院選、れいわ新選組
スポーツラグビーW杯、女子サッカーW杯
経済消費税10%、日EU EPA
ビジネス働き方改革、人手不足
文化改元、『天気の子』
科学ブラックホール画像、量子計算
技術AI、5G、宇宙開発
産業半導体、通信、キャッシュレス
芸能嵐活動休止発表、動画配信
国際社会香港抗議運動、Brexit
軍事INF条約終了、北朝鮮ミサイル
外交G20大阪、日韓関係、米中対立
皇室天皇退位、徳仁天皇即位
教育ICT教育、教育格差
サービスインバウンド、キャッシュレス
福祉介護人材、特定技能、保育無償化
医療ゲノム編集、電子たばこ問題
医薬品遺伝子治療・細胞治療
環境気候ストライキ、アマゾン火災
災害台風19号
年末新型コロナウイルスの出現

2019年は「2020年代の予告編」だった

2019年を少し長い時間軸で見ると、非常に興味深い構造が見えてきます。

まず日本では、平成から令和への改元がありました。これは30年間続いた平成という時代の終了を意味しました。しかし同時に、少子高齢化、介護人材不足、社会保障、地方衰退、労働力不足など、平成から引き継いだ課題は残っていました。

経済では、消費税増税と働き方改革が行われる一方、米中貿易戦争や日韓対立によって、グローバルなサプライチェーンにも亀裂が入り始めました。

科学技術では、AI、5G、量子コンピューター、ゲノム編集、宇宙開発、ブラックホール観測などが進みました。これらはすべて2020年代の主要産業技術につながっています。

そして国際社会では、香港、Brexit、米中対立、気候変動運動などによって、1990年代から続いてきた「グローバル化がさらに進む」という単純な未来像が崩れ始めていました。

そこに2019年末、新型コロナウイルスが登場します。

その意味では、

2019年=平成から令和への転換点

であると同時に、

2019年=グローバル化からデジタル化・分断・経済安全保障・脱炭素へ向かう転換点

でもありました。

さらに興味深いのは、2019年に起きた「技術」と「社会」の変化が、翌2020年のコロナ禍によって一気に加速したことです。

2019年にはまだ「働き方改革」の一つとして議論されていたテレワークは、2020年には感染症対策として不可欠になりました。2019年に進み始めていたキャッシュレス決済やオンラインサービスは、2020年には生活インフラになりました。2019年に始まっていた5G、AI、クラウド、IoTなどのデジタル技術は、コロナ禍によって社会実装が急速に進みました。

そして、2019年にはまだ「半導体産業の国際競争」として捉えられていた問題が、2020年以降には「経済安全保障」へと変化していきます。

したがって2019年は、「平成最後の年・令和最初の年」という象徴的な年であると同時に、現在につながる2020年代の社会構造が形成され始めた年だったと位置づけることができます。