2018年に起きたさまざまな出来事――平成最後の時代に何が起きていたのか

2018(平成30)年は、日本にとって「平成最後の一年」となった年です。翌2019年5月には元号が「令和」に変わることが決まり、2018年は平成という時代を振り返る最後のまとまった一年になりました。

一方、世界に目を向けると、2018年は単なる「平成の終わりの年」ではありません。米中貿易戦争、英国のEU離脱問題、米朝首脳会談、気候変動問題、デジタル化、AI、キャッシュレス化、暗号資産、SNS社会など、2020年代の世界を特徴づける問題が一気に表面化した年でもありました。

日本国内では、自然災害、働き方改革、外国人労働者の受け入れ、医学部入試問題、高齢化、介護人材不足などが社会問題となる一方、「はやぶさ2」の小惑星リュウグウ到着、本庶佑氏のノーベル賞受賞など、日本の科学技術を象徴する出来事もありました。国際的には、米国のトランプ政権が貿易・外交・安全保障の既存秩序を大きく揺さぶり、世界は「グローバル化の深化」から「国家間競争・経済安全保障」へと重心を移し始めました。(外交問題評議会)

以下、2018年を分野別に振り返ります。


1.社会――災害と高齢社会の現実が突きつけられた一年

西日本豪雨、北海道胆振東部地震、大阪北部地震

2018年の日本社会を語るうえで欠かせないのが、相次いだ自然災害です。

6月には大阪府北部地震が発生し、最大震度6弱を観測しました。7月には「平成30年7月豪雨」、いわゆる西日本豪雨が西日本を中心に広範囲を襲い、多数の死者・行方不明者を出しました。

さらに9月には台風21号が近畿地方を直撃し、関西国際空港が浸水。9月6日には北海道胆振東部地震が発生し、北海道で最大震度7を観測しました。北海道全域に及ぶ大規模停電も発生し、社会インフラの脆弱性が大きな問題となりました。(Nippon)

2018年の災害は、単に「自然災害が多かった」というだけではありません。電力、交通、通信、空港、物流、病院、介護施設など、現代社会が巨大なネットワークによって支えられていること、そしてそのネットワークの一部が停止すると社会全体が影響を受けることを明らかにしました。

猛暑と「災害級の暑さ」

2018年夏には記録的な猛暑となり、埼玉県熊谷市では7月23日に41.1℃を記録しました。当時の国内最高気温を更新する記録であり、熱中症による救急搬送も急増しました。(Nippon)

この経験は、その後の日本社会において「猛暑」を単なる気象現象ではなく、医療・福祉・労働・教育・都市政策に関係する社会問題として扱う契機の一つになりました。

オウム真理教事件の裁判と死刑執行

1995年の地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教をめぐる刑事裁判が事実上終結し、2018年7月には麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らの死刑が執行されました。

事件から20年以上が経過した時点での執行であり、1990年代の日本社会を震撼させた事件が、司法上の大きな区切りを迎えた年でもありました。(Nippon)


2.政治――安倍政権の長期化と制度改革

安倍晋三氏が自民党総裁3選

2018年9月、自民党総裁選で安倍晋三氏が3選されました。これにより、安倍政権の長期化がさらに明確になりました。

2018年には「働き方改革関連法」、成人年齢を20歳から18歳へ引き下げる改正民法、統合型リゾート(IR)実施法、外国人労働者の受け入れ拡大につながる改正入管法など、社会制度を大きく変える法律が成立しました。(Nippon)

森友・加計問題と行政への信頼

政治面では森友学園・加計学園問題も引き続き大きな争点となりました。

特に2018年には、財務省による森友学園への国有地売却をめぐる決裁文書の改ざん問題が発覚しました。

これは個別の政治問題を超えて、行政文書の管理、公文書の信頼性、官僚組織の説明責任という問題を社会に強く意識させました。(Nippon)

働き方改革

2018年の政治・経済政策を象徴するキーワードの一つが「働き方改革」です。

長時間労働、過労死、非正規雇用、女性の就業、労働生産性、人手不足などを背景として、労働時間制度などを改革する法律が成立しました。

これは後の「人材不足」「副業」「リモートワーク」「生産性向上」といった議論にもつながる重要な転換点でした。


3.経済――好景気の一方で構造問題が残った

戦後最長級の景気拡大

2018年の日本経済は、雇用情勢の改善や企業収益の拡大など、比較的良好な状態にありました。

しかし、その一方で人口減少、高齢化、人手不足、地方経済の弱体化、社会保障費の増大など、構造的な問題が解消されたわけではありません。

つまり2018年は、「景気は比較的良いのに、社会には将来不安が残る」という日本経済の特徴が明確になった時期でした。

消費税10%への準備

2018年には、翌2019年10月から消費税率を10%へ引き上げる方針が示され、軽減税率などの制度設計が進められました。

消費税増税は財政再建と社会保障財源の確保という問題と、消費・景気への影響という問題を同時に抱える政策でした。


4.ビジネス――「人手不足」が経営課題になった

深刻化する労働力不足

2018年の企業経営で重要だったのが「人手不足」です。

少子高齢化によって生産年齢人口が減少する一方、サービス産業や建設、物流、介護、外食などでは需要が拡大しました。

そのため企業にとって、

「商品を作る能力」だけでなく「働く人を確保する能力」

が競争力の重要な要素になり始めました。

この問題は、その後の外国人労働者受け入れ拡大、AI・ロボット導入、省人化、セルフレジ、無人店舗などへつながっていきます。

外国人労働者政策の転換

2018年には外国人労働者の受け入れ拡大を目的とする改正入管法が成立しました。

介護、外食、建設、農業など、人手不足が深刻な分野を中心に外国人材を受け入れる方向が強まりました。これは日本の「外国人労働者政策」が大きく転換する出発点の一つとなりました。(Nippon)


5.外食・小売・生活サービス――「人がいない店舗」への模索

コンビニ・外食産業の省人化

人手不足は外食や小売業に直接影響しました。

コンビニ、ファストフード、飲食店などでは、セルフレジ、券売機、タブレット注文、電子決済などの導入が進み始めました。

これは単なるIT化ではありません。

従来の店舗経営が、

「人を配置してサービスを提供する」

モデルだったのに対し、

「機械・ソフトウェア・データによって人間の仕事を補完する」

モデルへ変化していく過程でした。

キャッシュレス化

スマートフォン決済やQRコード決済なども急速に注目されました。

この時期はまだ日本では現金決済が非常に強かったものの、PayPayなどのスマートフォン決済サービスが登場し、その後のキャッシュレス競争につながっていきます。


6.スポーツ――日本社会を熱狂させた平昌五輪と大坂なおみ

平昌冬季オリンピック

2018年2月には韓国・平昌で冬季オリンピックが開催されました。

日本選手団も活躍し、羽生結弦選手がフィギュアスケート男子で連覇を達成するなど、大きな注目を集めました。

また、この大会はスポーツ大会であると同時に、北朝鮮と韓国の関係改善という外交的意味を持つ大会にもなりました。(ヒストリー)

大坂なおみ、全米オープン優勝

2018年9月、大坂なおみ選手が全米オープン女子シングルスで優勝しました。

日本の女子テニス界における歴史的な出来事であり、その後の日本スポーツ界における国籍、アイデンティティ、多文化性をめぐる議論にもつながりました。

サッカー・ワールドカップ

ロシアで開催された2018 FIFAワールドカップではフランスが優勝しました。

日本代表もグループリーグを突破し、決勝トーナメントではベルギーに敗れたものの、ベルギーを相手に2点を先行するなど、強い印象を残しました。


7.文化――平成文化の成熟と次世代文化の台頭

「平成最後」が文化現象になる

2018年には「平成最後」という言葉が社会の至るところで使われました。

元号の変更が決まったことによって、平成という約30年間を振り返る動きが強まりました。

音楽、テレビ、映画、ゲーム、漫画、ファッションなどを通して、平成という時代そのものを文化的に再評価する動きが広がったのです。

映画・アニメ文化

2018年には『ボヘミアン・ラプソディ』などの映画が世界的にヒットしました。

日本のアニメ・漫画文化も国際的な存在感を高め続けていました。

また、Netflixなどの動画配信サービスが普及し、映画やテレビ番組を「テレビ放送の時間に見る」という従来型の視聴文化から、「好きな時間にネット経由で見る」という文化への移行が進みました。


8.芸能――テレビ中心からネット中心へ

YouTuber・ネット発タレントの存在感

2018年頃には、YouTuber、インフルエンサーなど、インターネットを活動基盤とする人物が芸能・広告市場で無視できない存在になりました。

これは芸能産業の構造変化でもありました。

従来は、

テレビ局 → 芸能事務所 → タレント → 視聴者

という流れが中心でした。

しかしSNS時代には、

個人 → SNS → フォロワー → 広告・商品・サービス

という新しいルートが成立し始めました。

芸能人と一般人、メディア企業と個人の境界が徐々に曖昧になっていった時期です。


9.科学技術――「はやぶさ2」と本庶佑氏のノーベル賞

はやぶさ2、小惑星リュウグウへ到着

2018年最大級の科学ニュースの一つが、JAXAの「はやぶさ2」です。

2014年に打ち上げられたはやぶさ2は、2018年6月に小惑星リュウグウへ到着しました。

リュウグウは地球から約3億km離れた小惑星で、探査機が接近して詳細な観測を行うこと自体が高度な技術を必要とします。JAXAは到着前から光学航法などを駆使してリュウグウへの接近を進めていました。(はなはな01)

はやぶさ2の重要性は、単に「宇宙探査に成功した」ということではありません。

小惑星の物質を採取し、太陽系形成の歴史や生命の材料について調べるという、惑星科学と探査工学を結びつけた巨大な研究プロジェクトだったことにあります。

本庶佑氏、ノーベル生理学・医学賞

2018年の日本科学界最大のニュースの一つが、京都大学の本庶佑氏のノーベル生理学・医学賞受賞です。

本庶氏はジェームズ・P・アリソン氏とともに、「免疫抑制の阻害によるがん治療」の研究で受賞しました。免疫細胞の働きにかかる「ブレーキ」を解除するという考え方から、がん免疫療法の新しい原理を切り開いた研究です。(ノーベル賞公式サイト)

これは現在の「がんを直接攻撃する」だけではなく、「患者自身の免疫システムを利用する」という治療概念が大きく発展したことを象徴する出来事でした。


10.産業技術――AI・ロボット・電動化の競争

AIが「研究テーマ」から「企業競争」へ

2018年にはAIが研究者だけのテーマではなく、企業経営の中心的なテーマになりました。

画像認識、自然言語処理、需要予測、広告配信、自動運転、製造設備の予知保全など、AIの応用範囲が広がっていきました。

特に重要なのは、AIが単独の技術ではなく、

AI+ビッグデータ+クラウド+IoT

という組み合わせで産業を変える存在になったことです。

電気自動車

世界では電気自動車への投資が加速しました。電動車の販売拡大は、自動車産業そのものの構造を変える可能性を示し始めていました。2018年には世界的に電気自動車市場が拡大し、バッテリー技術や充電インフラも重要な産業テーマとなりました。(World Economic Forum)

これは日本の自動車産業にとっても重要な問題でした。

エンジン、トランスミッション、排気系など、日本企業が長年蓄積してきた内燃機関中心の技術体系が、電池、モーター、パワー半導体、ソフトウェアへと変化する可能性が見え始めたからです。


11.インターネット――SNS社会の光と影

Facebook・Googleなどへの社会的批判

2018年には、インターネット企業の巨大化に対する社会的な懸念が強まりました。

特にFacebookをめぐる個人データ利用問題や、選挙・政治広告との関係が大きな問題になりました。

インターネットは「自由な情報交換の場」である一方、

個人データを収集し、分析し、広告や情報配信に利用する巨大な経済システム

でもあることが広く認識されるようになったのです。

GDPR

EUでは2018年5月に一般データ保護規則、いわゆるGDPRが施行されました。

これは個人データをどのように企業が取得・利用するのかについて厳格なルールを設けるもので、世界のインターネット企業にも大きな影響を与えました。

今日の「個人情報を企業が勝手に使ってよいのか」という問題を考えるうえで、2018年は大きな転換点でした。

TikTokの世界的拡大

短時間動画を中心としたTikTokも2018年に世界的な存在感を急速に高めました。

これはSNSの主役が、文字中心のTwitterや写真中心のInstagramから、短時間の動画・推薦アルゴリズムへ移っていく流れの一部でした。


12.暗号資産――コインチェック事件

約580億円相当のNEM流出

2018年1月、日本の暗号資産交換業者コインチェックから約580億円相当のNEMが不正流出しました。

暗号資産市場の急速な拡大に対して、セキュリティや管理体制、規制が追いついていないことが大きな問題となりました。(事件JP)

この事件は、

「ブロックチェーンそのものの安全性」

と

「暗号資産を管理する企業の安全性」

は別問題であることを社会に認識させる事件でもありました。


13.国際社会――米中貿易戦争の始まり

トランプ政権と中国

2018年を国際経済の観点から見ると、最大の出来事の一つが米中貿易戦争です。

米国のトランプ政権は中国製品に対して大規模な追加関税を発動し、中国も対抗措置を取りました。

これは単なる貿易赤字問題ではありませんでした。

知的財産、先端技術、産業政策、中国企業の国際展開、国家安全保障などをめぐる米中間の構造的競争が表面化したものです。CFRは2018年を、米中貿易戦争によって既存の国際経済秩序が大きく揺さぶられた年と位置づけています。(外交問題評議会)

この流れは、その後の半導体規制、経済安全保障、サプライチェーン再編へとつながっていきます。


14.外交――史上初の米朝首脳会談

トランプ大統領と金正恩委員長

2018年6月、シンガポールで米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談が行われました。

前年には北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐって米朝間の緊張が極度に高まっていました。

ところが2018年になると、平昌五輪を契機として南北関係が改善し、南北首脳会談、米朝首脳会談へと外交的な展開が進みました。(ヒストリー)

ただし、非核化をめぐる具体的な履行には課題が残り、2018年の首脳外交だけで朝鮮半島問題が解決したわけではありません。


15.軍事・安全保障――「テロとの戦い」から「大国間競争」へ

米国の安全保障戦略が転換

2018年、米国の国防戦略では「テロとの戦い」だけでなく、中国やロシアとの「大国間競争」が安全保障上の主要テーマとして前面に出ました。

CFRも2018年の米国の国家安全保障戦略について、テロ対策から大国間競争へ重点が移ったことを指摘しています。(外交問題評議会)

この変化は非常に重要です。

2001年の米同時多発テロ以降、世界の安全保障は長く「テロ対策」を中心に動いていました。しかし2018年頃から、

米国対中国、米国対ロシアという国家間競争

が再び国際政治の中心に戻ってきました。

INF全廃条約をめぐる問題

米国は2018年、ロシアによる条約違反を理由としてINF全廃条約から離脱する意向を表明しました。

核兵器・ミサイルをめぐる軍備管理体制が揺らぎ始めたことも、2018年の重要な安全保障問題でした。(外交問題評議会)


16.環境――気候変動が「将来問題」から「現在の危機」へ

IPCC「1.5℃特別報告書」

2018年には気候変動問題がさらに大きな国際課題になりました。

IPCCは「1.5℃特別報告書」を公表し、地球温暖化を1.5℃程度に抑えるためには、社会・経済システムの大規模な転換が必要になることを示しました。

世界各地で猛暑、豪雨、山火事などの異常気象が発生したこともあり、気候変動問題は「将来の環境問題」から「現在の社会・経済問題」へと位置づけが変化しました。(外交問題評議会)


17.皇室――平成から令和への歴史的転換を準備

天皇陛下の退位が翌年に迫る

2018年は、平成の終わりを社会全体が具体的に意識した年でした。

2016年に天皇陛下が退位の意向を示され、2019年4月30日に退位、5月1日に皇太子徳仁親王が即位することが決定していました。

そのため2018年には「平成最後」という言葉が広く使われ、翌年の皇位継承に向けた準備が進められました。

2018年は、社会制度としての平成から令和への移行が始まった年だったといえます。


18.教育――18歳成人と大学改革

成人年齢を18歳へ

2018年に改正民法が成立し、成人年齢を20歳から18歳へ引き下げることが決まりました。

施行は2022年でしたが、2018年は日本社会が「大人とは何歳からなのか」という基本的な社会制度を変更することを決めた年でした。(Nippon)

医学部入試問題

2018年には東京医科大学の入試をめぐる不正問題が発覚し、その後、複数の大学医学部で女子受験生や浪人生などに不利となる得点調整が行われていたことが明らかになりました。(Nippon)

これは単なる入試不正ではなく、

「大学はどのような基準で人材を選ぶのか」

「医師不足対策と大学入試はどう関係するのか」

「性別による差別は許されるのか」

という教育制度・医療制度・ジェンダー問題が交差する社会問題となりました。


19.福祉――介護人材不足が社会構造問題へ

介護現場の人手不足

2018年には介護分野でも人材不足が深刻化していました。

高齢者人口の増加に伴って介護需要が拡大する一方、働き手となる若年人口は減少しています。

そのため介護業界では、

人材確保 → 外国人材 → ICT → ロボット → 業務改善

という複数の対策が必要になっていきました。

外国人介護人材

2018年の外国人労働者政策の転換は、介護業界にも大きな意味を持ちました。

介護は単純な労働力不足ではなく、「人と人とのコミュニケーション」を必要とする仕事です。そのため外国人介護人材の受け入れは、単なる労働力政策ではなく、日本の介護文化そのものをどう維持・発展させるかという問題にもつながりました。


20.医療――がん治療の概念が変わる

「免疫でがんを治療する」という発想

本庶佑氏のノーベル賞受賞は、医療の歴史という観点でも重要でした。

従来のがん治療は、手術、放射線、抗がん剤などによって「がん細胞そのものを攻撃する」ことが中心でした。

免疫チェックポイント阻害薬は、患者自身の免疫システムにかかっている抑制を解除し、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにするという考え方です。

これは、がん治療を「がんを直接攻撃する医学」から「人体の免疫システムを利用する医学」へ広げる重要な転換でした。(ノーベル賞公式サイト)

iPS細胞の臨床応用

2018年にはiPS細胞を利用した再生医療も進展しました。

大阪大学ではiPS細胞から作った心筋細胞を重症心疾患患者に移植する臨床研究が進められ、京都大学でもパーキンソン病に対するiPS細胞由来神経細胞移植の臨床研究が行われました。(Nippon)

2018年は、iPS細胞が「研究室の未来技術」から「実際の患者を対象とする医療」へ近づき始めた時期でした。


21.医薬品――バイオ医薬品時代の本格化

2018年の医薬品産業では、低分子化合物中心の従来型医薬品だけでなく、抗体医薬、免疫療法、再生医療などの存在感が高まりました。

特に本庶氏の研究に象徴される免疫チェックポイント阻害薬は、製薬産業の研究開発モデルにも大きな影響を与えました。

医薬品産業は、

「化学物質を作る産業」

から、

「人体の生物学的メカニズムを理解し、それを治療に利用する産業」

へと、より強く変化していました。


22.金融――金融緩和と「デジタル金融」の交差

2018年の日本では、日本銀行による大規模金融緩和が続いていました。

一方、世界では暗号資産、フィンテック、スマートフォン決済など、新しい金融サービスが急速に拡大しました。

従来の銀行が、

「銀行店舗+ATM+現金」

を中心としていたのに対し、

「スマートフォン+アプリ+クラウド+データ」

によって金融サービスを提供する企業が増え始めました。

この変化は、その後のキャッシュレス化、ネット銀行、QRコード決済、デジタル通貨などにつながっていきます。


23.国際経済――日本とEUのEPA

2018年7月、日本とEUの経済連携協定(EPA)が署名されました。

これは世界経済における保護主義の強まりとは対照的に、日本とEUが自由貿易を推進する動きでした。

同年には米国が鉄鋼・アルミニウム関税などを発動し、中国との貿易摩擦を激化させました。つまり2018年には、

自由貿易を拡大する動き

と

保護主義・経済ナショナリズムの強まり

が同時に進行していたのです。(外交問題評議会)


24.企業経営――GAFAの巨大化

2018年にはAppleの時価総額が1兆ドルに到達し、巨大IT企業の経済的存在感が象徴的に示されました。(外交問題評議会)

Apple、Google、Amazon、Facebookなどの巨大IT企業は、単なる「IT企業」ではなくなっていました。

スマートフォン、OS、検索、広告、EC、クラウド、SNS、決済など、生活そのものを支える社会インフラに近い存在へ変化していました。

その結果、

「巨大IT企業をどこまで規制するべきか」

「個人データを誰が所有するのか」

「国家と巨大企業の力関係をどう考えるか」

という新しい経済政策上の問題が生まれました。


25.世界文化――#MeToo、若者の社会運動

2018年には、#MeToo運動が世界各地に広がり、性暴力やセクシュアルハラスメント、権力関係の問題が社会的議論となりました。

また米国では学校銃乱射事件を契機に若者による社会運動が広がりました。

つまり2018年の社会運動は、従来の政党や労働組合だけを中心としたものではありませんでした。

SNSによって個人が直接発信し、

個人の経験 → SNSで共有 → 社会問題化 → 政策議論

という新しい社会運動の形が定着していったのです。(ヒストリー)


26.英国――Brexitが政治危機へ

英国ではEU離脱、いわゆるBrexitをめぐる交渉が続きました。

2018年には英国政府とEUの間で離脱条件をめぐる交渉が進められましたが、国内政治では強い対立が続きました。

2018年末の段階でも、英国がどのような形でEUから離脱するのかは不透明でした。(外交問題評議会)

Brexitは単なる英国のEU離脱問題ではなく、

「グローバル化によって利益を得る人と不利益を感じる人」

「国家主権と国際統合」

という21世紀の政治的対立を象徴する問題になりました。


27.中東――イラン核合意と米国

2018年5月、米国はイラン核合意、JCPOAから離脱しました。

米国がイランへの制裁を再強化したことで、核問題をめぐる国際関係は再び緊張しました。

これは米国が国際的な多国間合意から離脱し、自国の政策を優先する外交姿勢を強めた象徴的な出来事でした。(外交問題評議会)


28.中国――世界第二の経済大国から「技術大国」へ

2018年の中国は、単に「安い製品を作る国」ではなくなっていました。

AI、通信、電子商取引、スマートフォン、ドローン、EV、半導体などで中国企業が急速に成長していました。

米中貿易戦争の背景にも、単なる貿易赤字だけではなく、

「次世代技術の主導権を誰が握るのか」

という競争がありました。

この意味で2018年は、現在の米中テクノロジー競争の本格化を理解するうえで非常に重要な年です。


29.自動車産業――CASE時代の入り口

2018年の自動車産業では「CASE」という言葉が注目され始めました。

CASEとは、

Connected(接続)
Autonomous(自動運転)
Shared(共有)
Electric(電動化)

を意味します。

自動車が「エンジンで走る機械」から、

通信するコンピューターであり、移動サービスでもある製品

へ変わろうとしていました。

この変化は、日本の自動車産業にとって極めて重要でした。自動車メーカーだけでなく、半導体、電池、通信、AI、ソフトウェア、地図、保険、物流など、多くの産業を巻き込むからです。


30.2018年を象徴する「5つの転換」

2018年の出来事を個別に見ると、政治、経済、科学、福祉、文化などに分かれています。しかし全体を俯瞰すると、いくつかの大きな転換が見えてきます。

転換2018年に見えた変化
平成から令和へ平成という時代の終わりが具体化
グローバル化から国家間競争へ米中貿易戦争、経済安全保障
人口増加型社会から人口減少型社会へ人手不足、外国人労働者、介護問題
アナログ社会からデジタル社会へSNS、キャッシュレス、AI、クラウド
従来型医療からバイオ・免疫医療へがん免疫療法、iPS細胞
内燃機関から電動化へEV、電池、パワー半導体
マスメディアから個人発信へYouTube、SNS、インフルエンサー
自然災害対応からレジリエンスへ豪雨、地震、猛暑、大規模停電

2018年という年を振り返る――「2020年代の予告編」だった

2018年を改めて振り返ると、非常に興味深いことが分かります。

この年にはまだ新型コロナウイルス感染症は発生しておらず、AIも現在ほど一般社会に浸透していませんでした。生成AIも一般消費者から見れば遠い存在でした。米中対立も現在ほど激しくなく、半導体をめぐる経済安全保障もまだ今日ほど強く意識されていませんでした。

しかし、その「種」はすでに2018年に出そろっていました。

AI、SNS、キャッシュレス、暗号資産、個人データ、EV、再生医療、がん免疫療法、外国人労働者、介護人材不足、気候変動、米中対立、経済安全保障、サプライチェーン、国家間競争――。

これらは、その後の2020年代を特徴づけるキーワードになります。

特に重要なのは、2018年が「グローバル化の黄金時代の終わり」に近づいた時期だったことです。

1990年代から2000年代にかけては、世界中で市場を統合し、国境を越えて製品・資本・人材・情報を移動させることが経済成長の基本モデルでした。しかし2018年になると、米中貿易戦争、Brexit、移民問題、データ主権、技術覇権、国家安全保障などが一気に前面へ出てきました。CFRが2018年を「貿易戦争」「気候変動」「西側諸国の弱体化」などが交差した年として整理していることは、その転換をよく示しています。(外交問題評議会)

そして日本では、別の転換も進んでいました。

「人口が増える日本」から「人口が減る日本」へ。

人手不足を外国人材で補うのか、AIやロボットで補うのか、高齢者や女性の就労を増やすのか、生産性を上げるのか。介護、医療、外食、物流、建設など、多くの産業が同じ問題に直面していました。

だからこそ2018年は、単なる「平成30年のニュース集」ではありません。

平成という一つの時代が終わり、新しい社会構造が姿を現し始めた年

と捉えることができます。

2019年には「令和」が始まり、2020年には新型コロナウイルスが世界を覆い、2021年以降は半導体不足やサプライチェーン問題、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻、さらにAI・EV・経済安全保障の競争へと世界は急速に進みます。

その意味で2018年は、2010年代を締めくくる年であると同時に、2020年代を先取りしていた年だったのです。