2021(令和3)年は、単純に「コロナ禍の2年目」として片づけることのできない年でした。新型コロナウイルス感染症への対応が社会・経済・医療・教育・サービスのあらゆる領域を変える一方で、政治では日本の首相交代、米国ではバイデン政権の発足、国際社会ではアフガニスタンからの米軍撤退、AUKUSの創設、COP26など、大きな構造変化が重なりました。
また、半導体不足やサプライチェーン問題、デジタル化、AI、宇宙開発、脱炭素など、現在の産業構造を考えるうえで重要なテーマが一気に表面化した年でもあります。日本では東京オリンピック・パラリンピックが1年延期の末に開催され、皇室では眞子内親王の結婚、愛子内親王の成年皇族入りなど、大きな出来事が続きました。
以下では、2021年を政治、社会、経済、文化、科学技術、産業技術、芸能、国際社会、軍事、外交、皇室、教育、サービス、福祉、医薬品などの分野に分け整理します。
1.政治――菅政権から岸田政権へ
菅義偉首相の退陣と岸田文雄政権の発足
2021年の日本政治を象徴する出来事は、菅義偉首相から岸田文雄首相への政権交代でした。
菅政権は2020年9月に発足しましたが、2021年には新型コロナウイルスへの対応、とりわけ東京オリンピック・パラリンピックの開催をめぐって政治的な難しい判断を迫られました。
菅首相は9月に自民党総裁選への出馬を見送り、10月4日に内閣総辞職しました。首相官邸の記録によれば、菅内閣の在職期間は2020年9月16日から2021年10月4日まででした。
その後、自民党総裁選で岸田文雄氏が選出され、10月4日に第100代内閣総理大臣に就任しました。
衆議院選挙と「岸田政治」のスタート
岸田政権発足後、10月14日に衆議院が解散され、10月31日に衆議院議員総選挙が実施されました。
この選挙によって岸田政権は本格的な政権運営に入ります。
2021年は、単に首相が交代した年というだけではありません。安倍晋三政権から菅政権、そして岸田政権へと、日本政治の重心が変化し始めた時期でもありました。
2.社会――「コロナ社会」が日常になった
新型コロナウイルス感染症の第5波
2021年の日本社会を最も強く規定したのは、前年に続く新型コロナウイルス感染症でした。
日本では2021年に第3波、第4波、第5波という大きな感染拡大が起こり、特に夏の第5波ではデルタ株の拡大によって新規感染者が急増しました。東京オリンピック・パラリンピックの開催時期とも重なり、社会的な緊張が高まりました。
しかし2021年後半になると、ワクチン接種の進展と感染者数の減少によって状況は大きく変化します。
2021年は、コロナが「非常事態」から「社会の中に存在するリスク」へと認識され始めた年だったともいえます。
3.経済――コロナ不況から「供給制約」の時代へ
半導体不足とサプライチェーン危機
2021年の世界経済で非常に重要だったのが、半導体不足です。
新型コロナによって自動車工場などが一時停止する一方、在宅勤務やゲーム、PC、データ通信などの需要が急増しました。その結果、半導体の需給バランスが崩れ、自動車をはじめとする製造業に深刻な影響が及びました。
世界的には半導体だけでなく、コンテナ、物流、人手、エネルギーなどにも供給制約が発生しました。CFRも2021年の世界経済について、半導体不足とサプライチェーンの混乱が重要な問題になったと整理しています。(外交問題評議会)
これは後の「経済安全保障」や「半導体主権」を考えるうえで非常に重要な転換点でした。
4.産業技術――半導体が「戦略物資」になった
半導体不足が産業政策を変えた
2021年には、半導体が単なる電子部品ではなく、国家の産業競争力や安全保障を左右する戦略物資として認識されるようになりました。
自動車、スマートフォン、家電、通信機器、データセンター、人工知能、軍事装備など、現代産業のほとんどが半導体に依存しています。
そのため、米国、中国、台湾、韓国、日本、欧州などが半導体生産能力の確保を重要な政策課題として扱うようになります。
日本にとっても、後に熊本でのTSMC進出やRapidus設立などへつながっていく大きな流れの出発点として、2021年は重要な年でした。
5.科学技術――眞鍋淑郎氏のノーベル物理学賞
気候モデル研究がノーベル賞に
2021年の日本科学界では、眞鍋淑郎氏のノーベル物理学賞受賞が大きな出来事でした。
眞鍋氏は大気と海洋の動きを組み込んだ気候モデルを開発し、二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化にどのようにつながるのかをコンピューターによってモデル化しました。文部科学省は、眞鍋氏の研究が現在の気候変動研究の基礎につながっていると説明しています。(文部科学省)
この受賞は、「地球温暖化」という現在の巨大な政策課題が、何十年にもわたる基礎科学研究の積み重ねによって形成されてきたことを象徴する出来事でした。
6.デジタル技術――デジタル庁の発足
日本政府のデジタル化が本格化
2021年9月1日、日本ではデジタル庁が発足しました。
行政サービスのデジタル化、マイナンバー制度、行政システムの標準化、データ連携などを進めるための政府組織です。(Nippon)
これは単なる行政機関の新設ではありません。
コロナ禍によって、日本の行政・医療・教育・企業におけるデジタル化の遅れが明確になったためです。
2021年は、日本社会が「デジタル化しなければならない」という認識を強く持つようになった年でした。
7.医薬品――mRNAワクチンの時代
COVID-19ワクチンの社会実装
2021年には、ファイザー・ビオンテックやモデルナなどのmRNAワクチンが世界各国で本格的に接種されました。
mRNAを利用して人体の細胞に抗原となるタンパク質を作らせ、免疫反応を誘導するという技術が、世界規模で実用化されたことになります。
これは医薬品産業にとっても大きな転換でした。
従来型のワクチン開発だけではなく、mRNA、遺伝子治療、細胞治療などを含む新しいバイオテクノロジー産業の可能性が広く認識される契機となりました。
一方、日本ではワクチン開発や生産体制の課題も強く意識されました。文部科学省も2021年前後の科学技術政策において、COVID-19の治療法・診断法・ワクチン研究や国内供給体制の強化を重要課題として位置づけています。(文部科学省)
8.医療――「病院中心」から「社会全体の健康危機管理」へ
医療提供体制の限界
2021年には、感染者数の急増によって病床不足や医療従事者不足が問題となりました。
これは単純な「病院の数」の問題ではありません。
感染症病床、ICU、救急医療、訪問看護、介護施設、保健所、検査体制、救急搬送など、医療・介護システム全体が一つのネットワークとして機能しなければならないことが明らかになりました。
その意味で2021年は、医療安全や介護安全を「個別施設の問題」ではなく、地域社会全体のシステムとして考える必要性が明確になった年でもあります。
9.福祉――介護・高齢者支援の意味が変わった
高齢者と感染症リスク
高齢者施設では感染症対策が極めて重要になりました。
介護施設は単なる生活支援施設ではなく、感染症流行時には医療・公衆衛生・家族支援・看取りを同時に担う場所でもあります。
2021年にはワクチン接種が高齢者から優先的に進められました。菅首相も退任時の説明で、高齢者への接種を含めワクチン接種を政権の重要な取り組みとして挙げています。(内閣官房)
コロナ禍によって、介護の役割は「身体介護」だけではなく、生活、医療、感染症、家族、心理、人生の最終段階を支える社会インフラとして再認識されました。
10.教育――学校教育のデジタル化
GIGAスクール構想
2021年には、児童・生徒1人1台端末を整備するGIGAスクール構想が急速に進みました。
コロナ禍による休校やオンライン授業の必要性が、教育ICT化を一気に押し進めました。
それまでの日本の学校では「コンピューターを使える学校」と「ほとんど使わない学校」の差がありましたが、2021年前後から端末を前提とした教育環境へと移行していきます。
ただし、端末を配ることと教育がデジタル化することは同じではありません。
教師の指導法、教材、評価方法、情報リテラシー、家庭環境など、教育そのものの再設計が課題になりました。
11.サービス産業――非接触型サービスの拡大
飲食・小売・観光の変化
2021年には、飲食、宿泊、観光、イベントなど、人と人との接触を前提としていたサービス産業が大きな影響を受けました。
一方で、宅配、テイクアウト、オンライン接客、キャッシュレス決済、ネット通販などが拡大しました。
つまり2021年は、
「人が集まってサービスを受ける」
という従来型サービスモデルから、
「人が集まらなくてもサービスを提供できる」
モデルへ転換する実験が社会全体で行われた年でした。
12.文化――東京オリンピック・パラリンピック
1年延期された大会
2021年7月23日、東京オリンピックが開幕しました。
本来は2020年開催でしたが、新型コロナウイルスの影響で1年間延期されました。
さらに感染対策のため、東京都などの多くの会場では無観客開催となりました。東京大会は2021年8月8日に閉幕し、日本は過去最多となる58個のメダルを獲得しました。(Nippon)
パラリンピックも8月24日から9月5日まで開催されました。
この大会はスポーツイベントであると同時に、
巨大イベントを感染症流行下でどのように開催するのか
という社会実験でもありました。
13.芸能――「テレビ中心」から「配信中心」へ
Netflixなど動画配信サービスの拡大
2021年前後には、Netflix、Amazon Prime Video、Disney+などの動画配信サービスが日本でも定着しました。
映画やドラマを「テレビ放送の時間に合わせて見る」のではなく、自分の好きな時間に見る文化が急速に普及しました。
芸能界でも、テレビ、映画、音楽、YouTube、SNS、動画配信などが融合し、芸能人の活動場所そのものが変化しました。
2021年は、芸能産業のデジタル化が決定的になった時期と位置づけることができます。
14.国際社会――アフガニスタンからの米軍撤退
タリバンが再び政権を掌握
2021年8月、アフガニスタンから米軍が撤退する過程で、イスラム主義勢力タリバンが急速に勢力を拡大し、首都カブールを掌握しました。
米国によるアフガニスタン戦争は約20年に及びましたが、最終的にはタリバンが再び政権を握る結果となりました。CFRも2021年の重要な国際出来事として、アフガニスタンでのタリバン復権を挙げています。(外交問題評議会)
これは米国の国際戦略、同盟国との関係、軍事介入の限界などについて大きな議論を引き起こしました。
15.軍事――AUKUSの創設
米英豪の安全保障協力
2021年9月、米国、英国、オーストラリアはAUKUSという新たな安全保障協力枠組みを発表しました。
特に注目されたのが、米英の技術を用いてオーストラリアが原子力潜水艦を導入する構想です。
これは中国の軍事力・海洋進出を背景としたインド太平洋地域の安全保障環境の変化と結びついています。(外交問題評議会)
一方、この決定によってフランスとオーストラリアとの潜水艦契約が破棄されたため、フランスとの外交問題にも発展しました。
16.外交――米中対立の構造化
米中関係が世界秩序の中心問題へ
2021年には米中対立がさらに明確になりました。
半導体、通信、AI、宇宙、台湾、南シナ海、香港、人権など、両国の対立領域は安全保障だけではありません。
特に重要なのは、経済と軍事と技術が分離できなくなったことです。
半導体をめぐる競争は、単なる企業間競争ではなく、国家安全保障そのものになっていきました。
17.外交・国際経済――最低法人税率15%
G7が国際課税改革で合意
2021年6月、G7は多国籍企業を対象とした最低法人税率について、少なくとも15%とする方向を支持しました。(外交問題評議会)
これはAmazon、Google、Appleなどの巨大デジタル企業が世界各国で活動する一方、企業の利益が国境を越えて移動することによって生じる税制上の問題への対応でした。
つまり2021年は、デジタル経済に合わせて国家の税制そのものを再設計する必要性が高まった年でもあります。
18.環境・エネルギー――COP26と脱炭素
気候変動が産業政策になった
2021年11月には英国グラスゴーでCOP26が開催されました。
気候変動対策は、それまでの「環境政策」から、
エネルギー政策、産業政策、金融政策、技術政策、安全保障政策
へと広がっていきます。
電気自動車、蓄電池、水素、再生可能エネルギー、原子力、半導体、省エネ技術などが「脱炭素産業」として位置づけられるようになりました。
ここでも2021年は現在につながる重要な転換点でした。
19.皇室――眞子内親王の結婚
皇室と社会の距離を考えさせた出来事
2021年10月、秋篠宮家の長女・眞子内親王が小室圭氏と結婚し、皇籍を離れました。
この結婚をめぐっては、小室氏の母親の金銭問題などをめぐって社会的な議論が長く続きました。
一方、皇族自身の人生選択と、国民の関心、皇室制度との関係を考える機会にもなりました。
20.皇室――愛子内親王の成年皇族入り
新しい皇室の世代へ
2021年12月1日、天皇・皇后両陛下の長女、愛子内親王が20歳となり、成年皇族となりました。(Nippon)
令和の皇室において、新しい世代が公的な活動を担う段階に入ったことを象徴する出来事でした。
21.災害――熱海土石流
盛土と土地利用をめぐる問題
2021年7月、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生しました。
住宅地を大量の土砂が流れ下り、多くの住宅が被害を受け、死者・行方不明者が発生しました。(Nippon)
この災害では、単なる自然災害という視点だけではなく、
土地開発、盛土、行政の監督、所有者責任、災害リスク
という複数の問題が結びついていることが注目されました。
22.社会問題――森友学園問題の「赤木ファイル」
公文書と行政組織の問題
2021年には、森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題について、赤木俊夫氏が改ざんの経緯などを記した「赤木ファイル」の存在と内容が明らかになりました。(Nippon)
これは行政文書、公務員、政治と行政の関係、組織内の意思決定などを考えるうえで重要な出来事でした。
23.2021年を象徴するキーワード
2021年を分野横断的に見ると、特に重要な言葉が浮かび上がります。
| 分野 | 2021年を象徴するキーワード |
|---|---|
| 政治 | 菅政権退陣、岸田政権、衆院選 |
| 社会 | コロナ、第5波、ワクチン |
| 経済 | サプライチェーン、供給制約、インフレ |
| 産業 | 半導体不足、経済安全保障 |
| 科学 | 気候モデル、眞鍋淑郎 |
| 技術 | AI、DX、mRNA、宇宙技術 |
| 医薬品 | COVID-19ワクチン、mRNA |
| 医療 | 病床確保、感染症危機管理 |
| 福祉 | 高齢者施設、介護と感染症 |
| 教育 | GIGAスクール、オンライン教育 |
| サービス | 非接触サービス、宅配、キャッシュレス |
| 文化 | 東京オリンピック・パラリンピック |
| 芸能 | 動画配信、YouTube、SNS |
| 国際 | アフガニスタン、米中対立 |
| 軍事 | AUKUS、インド太平洋 |
| 外交 | 日米同盟、COP26、国際課税 |
| 皇室 | 眞子内親王の結婚、愛子内親王成年 |
| 環境 | 脱炭素、COP26 |
| 災害 | 熱海土石流 |
| デジタル | デジタル庁、DX |
2021年から何が始まったのか
2021年を現在から振り返ると、単なる「コロナ禍の年」という理解では不十分です。
むしろ2021年は、2020年代後半の社会構造を決めるいくつもの変化が同時に姿を現した年と見ることができます。
第一は、感染症社会の本格化です。ワクチン、医療提供体制、介護、福祉、教育、働き方、サービス産業まで、感染症リスクを組み込んだ社会設計が必要になりました。
第二は、デジタル社会への移行です。デジタル庁、GIGAスクール、オンラインサービス、動画配信、キャッシュレスなど、デジタル化が「便利な新技術」から「社会インフラ」へと変わっていきました。
第三は、半導体・エネルギー・医薬品をめぐる経済安全保障の時代の始まりです。半導体不足、ワクチン争奪、エネルギー価格、サプライチェーン混乱によって、「安いところから買えばよい」というグローバル化の論理に限界が見え始めました。
第四は、科学技術と国家戦略の接近です。AI、半導体、量子、宇宙、バイオ、気候技術などが、企業の研究開発だけでなく国家安全保障や外交政策と直結するようになりました。
そして第五は、世界秩序そのものの変化です。アフガニスタンからの米軍撤退、AUKUS、米中対立、台湾情勢、COP26などを通じて、冷戦後の世界秩序が大きく変化していることが明確になりました。2021年末にはロシアによるウクライナ国境付近での軍事力増強も大きな懸念となっており、翌2022年のロシアによるウクライナ侵攻につながる緊張がすでに表面化していました。(外交問題評議会)
その意味で2021年は、「コロナ前の世界」と「コロナ後の世界」の境界線であると同時に、半導体、AI、脱炭素、バイオ、デジタル、経済安全保障、介護・福祉など、現在の社会を理解するための重要な起点になった年だったと整理できます。(文部科学省)
